地球の誕生からおよそ10億年程経過した頃、原始の海の中で地球最初の生命が誕生した。1μm以下の極小のその生物はやがていくつかの種が融合を繰り返し、細胞内共生を行い大型の細胞を持つ真核生物となる。10億年ほど前、単細胞であった真核生物は多細胞化を始め、古生代初期にはカンブリア爆発と呼ばれる現象、突如として今日見られる動物のボディプランがほぼ全て出揃った。古生代も後半になるとそのうちのいくつかの生物が海中から上陸し、陸上での進化を開始した。長い年月に渡って世代交代を繰り返しながら次第に姿、形を変え生物は進化を続けてきた。哺乳類が誕生したのはおよそ6600万年前、人類が誕生したのはほんの数十万年前のことだ。
哺乳類である人類は胎生と呼ばれる繁殖形態を持つ。動物は卵の形で新しい個体を形成するのが一般的だが、卵をそのまま体外に出すのではなく、雌の体内で孵化させ子供の形で産む、それが胎生だ。胎内で子供を育てる妊娠期の長さは動物により様々で、象は650日、キリンは460日、犬や猫は60日、そして人はおよそ280日程度だ。そんな妊娠期間に出勤している女性を見つけたのは休日の昼下がりのことだ。一般的な風俗にいささか食傷気味だったこともあり、多少の躊躇はあったもののすぐさま予約を入れホテルに向かった。
やってきたのは年の頃、30歳前後の大きな瞳が印象的な綺麗な女性だった。大きなお腹でホテルの階段を登ってきたからであろう、彼女は少々息を切らせていた。申し訳ないなと思ったが大概のラブホテルは1階が駐車場、2階が部屋となっている。毎日何度も階段を上り降りしている場面を想像して少し胸が痛んだ。ソファに腰を下ろした彼女はマスクを外し明るく挨拶をした。くっきりとした目鼻立ちのエキゾチックな顔立ちでこちらをじっと見据えて話をする彼女に少々気後れをし、視線をふと下に向けると丸々と膨らんだお腹に目がいく。妊娠中に風俗嬢として働く彼女の身の上を考えると気持ちも沈みがちになるが、明るく快活に会話をする彼女にそんな悲壮感はまるでなく私は少しずつ好意を抱きつつあった。
全裸となった彼女の腹部は大きく膨らみ間違いなくそこにもう一つの命が存在していることを感じることができた。張りのある大きな乳房の中心には色素沈着により茶褐色に変化した乳首が堂々と鎮座している。その大きめの乳首をそっと口に含み優しく転がす。頭の上から小さな喘ぎ声が聞こえたような気がしたが、乳腺が発達し固く張った乳房は最早欲望の対象物ではなく乳児に母乳を与える気管なのだとはっきり認識すると膨らんだ腹部の中から抗議の声が聞こえてきそうな気がしてふっと口を離した。体勢を変え私の股の間に座る彼女が徐に私の陰茎を頬張る。舌先を小刻みに震わせながらゆっくりと頭全体を上下させる。少しづつ高まる快楽にうめき声を漏らす私であったが、ふと彼女に目をやると大きいお腹で体勢が辛そうなことが気になり集中できずにいた。
私の右隣に横になった彼女が口で乳首、右手でゆっくりと陰茎を刺激する。私の右手の甲には彼女のお腹がピッタリと触れている。彼女の腹部を通じて確かな生命の息吹を感じながら快楽を存分に享受していた。私の下腹部から湧き上がる欲望、これも生命力だ。新しい命を宿しながらまるで二重螺旋のように絡み合う2つの生物。彼女の右手の動きが少しづつ早くなると、私は抗うこともできず大きく果てた。私は脱力感に身動きも取れず、ただ胸の辺りまで放出された何も描かれていないキャンバスのように白い精液をただぼんやりと眺めていた。
綿々と気の遠くなるような長い期間紡がれてきた生命。今また一つの尊い命がこの世に誕生しようとしている。決して今現在も安穏と生きていける世界ではないのかもしれないが、逞しく健やかに育って欲しい。後片付けをする彼女のお腹を見ながらそう思った。服を着ると何事もなかったかのように二人で静かにホテルを後にした。車を走らせながら先ほどまで我慢していた電子タバコを咥えた。少し窓を開け煙を吐き出すと、ゆっくりとアクセルを踏み込み私は家路を急いだ。