秋晴れの心地よい休日の昼下がり、昼食を終えた私は郊外のコンビニの駐車場で電子タバコを燻らせていた。スマートフォンを眺めながらかれこれ20分ほど考え込んでいる。スマートフォンの熱で左手の掌はじんわりと汗ばんでいた。日頃は時間をかけず直感的に選ぶ私が選択に費やす時間はせいぜい数分程度のものだが、今日は何度も何度も思案を繰り返していた。その理由はこの女性の名前の頭に記された『NH』の二文字のアルファベットである。そう、ニューハーフの風俗嬢なのだ。現在、世界中の約20%の国や地域で同性婚や登録パートナーシップの同性カップルの権利を保障する制度を持っているようで、その数は今後も増加傾向にあり日本においても様々な議論が交わされている。2020年に大手広告代理店が行ったインターネット調査によるとLGBTQという言葉の浸透率は80%を超えようやく一般化してきた。セクシャルマイノリティの方々への理解も少しづつではあるが進んでは来ているようだ。しかし職場や学校での言われなき差別や偏見の眼差しなど実社会においてはまだまだ時間が必要であろう。性の多様性への問題は繊細で扱いづらい難問ではあるが避けて通ることはできない。自分自身の性認識を改めて確認し、マイノリティへの理解を深めるためにも一度挑戦してみるべきではないだろうか。そう考えた私は意を決して震える手でそっと予約の電話をかけるのであった。
こんなに緊張感を持って待つのは久しぶりのことだ。見慣れたはずのラブホテルの燻んだ景色もいつもとは違って見えたような気がする。理由もなく部屋を歩き回りながら咥えていた3本目のタバコを灰皿に捨てた時、小さなノック音が聞こえた。そっと玄関に近づくとゆっくりと息を吐きだし高鳴る鼓動を鎮めるために呼吸を整えた。そしてガチャリと鍵を開けた。年季の入った蝶番の小さな軋みと共にゆっくりと開いたのは私の新しい世界への旅立ちの扉であった。
目の前に現れたのは金髪に近い明るい髪色をしたギャル風のニューハーフであった。私は男性・女性を問わず明るい髪色のヘアスタイルが苦手だったことを思い出しながら部屋に招き入れる。恐る恐る挨拶を交わすと私は自分自身の緊張を解すためにも努めて快活に口を開いた。やや低めの声ではあるが落ち着いた口調で話す彼女はとても好青年だった。矛盾を孕んではいるがこう表現するのが的確だ。会話もそこそこにシャワーに向かうためどちらともなく服を脱ぎ始めた。私はシャツのボタンを外しながら視線は彼女の身体からじっと逸さずにいた。少しづつ露わになってきたのは引き締まった太ももの間に鎮座する正しく男性のそれだった。ところが少し視線を上方にずらすと可愛らしい表情で彼女はそっと微笑む。脳の理解力では追いつくことのできない大きな振れ幅に私は妙な興奮を感じ始めていた。
シャワーを終えベッドの中央に横たわると右隣に支度を済ませた彼女がやってきた。私の顔をそっと眺めると目を閉じ、少しづつ顔を近づけてくる。緊張と興奮に全身を包まれていた私も唇と唇が触れ合う瞬間に静かに目を閉じた。官能的な触感が唇に感じられるとぬるりと舌先が潜り込んでくる。私の興奮は急加速で高まりながら彼女の身体を強く抱きしめ、2つの唇と舌先が艶かしく蠢きあっていた。手と口を巧みに操る彼女の愛撫が乳首から徐々に下腹部へと移り、私の性器に到達した時には身悶えながら歓喜の声をあげる他なかった。快楽のつぼを見事に刺激する様々な責め技とこの異様な状況に私の股間は固く固くそそり立つのだった。このままでは女性の風俗嬢と何ら変わりはない。そう思った私は彼女の身体を抱えそっと横たえると徐に下半身に顔を近づけた。
私は眼前の綺麗に剃毛され恥ずかしそうに佇む男性器をじっと見つめていた。不思議と違和感は全く感じなかった。まるでそうすることが当然であるかのように私はそれをそっと口に含んでみた。今まで感じたことのない触感を口内で味わう。舌先を先端に這わすと彼女の身体が小さく震えそして性器は少し大きくなったように感じられた。私は頭全体を使ってゆっくりと上下運動を行いながら口全体で優しく包み込む。彼女の性器が大きく固く変化していく様を感じ取ることができる。根本から先端まで裏筋を舌先で丹念に舐め上げると少しづつ喘ぎ声が漏れ聞こえてきた。自分の愛撫による反応が五感ではっきりと確認できることに悦びを覚えた私は気がつくと必死で貪り続けていた。
後編に続く

