私は福井県の小さな田舎町で生まれ育った。周りを田圃に囲まれた閉鎖的で排他的なその町を物心がついた時には忌み嫌うようになり、テレビや雑誌で見聞きする東京に言い知れぬ憧れを抱いていた。中学、高校と世間が広がるに連れてその憧れはより大きく膨らんでいったが、それほど裕福ではない家庭で育った私は地元の国立大学に不本意ながら入学するより選択肢はなかった。そんな学生時代に大学を休学し東京に居を構えた事がある。大した目的があったわけではない。「私がいるべき場所はここではない」と言うちっぽけな想いで何の根拠もなく、のこのこと上京したのだった。
JR池袋駅の北改札を出た私は電話の向こうのぶっきらぼうな男に指示されるまま見慣れぬ街を歩いていた。右に左に指示通り歩を進めると一軒のラブホテルが見えてきた。ようやく入室できた時には全身からじんわりと汗が滲んでいた。東京で何もすることがない私はSM雑誌に掲載されていた広告を頼りに初めてのSM倶楽部にやってきたのだ。10分ほど待つと、部屋に大きめのチャイム音が響き、恐る恐るドアを開けるとそこには黒髪の美しい女性がスーツケースを携え立ち構えていた。あまりの美しさに狼狽しながらも部屋に招き入れた。これが東京の女性かと妙な感動を覚え早まる鼓動に心も躍った。彼女に促されるままシャワーを浴び部屋に戻ると、そこには身体に隙間なくフィットしたボンテージ姿の麗しい女王様が立っていた。見惚れている間に後ろ手を縛られた私は彼女の織りなす巧みな責めに適度な痛みと快楽を感じすぐに喘ぎ声を漏らしてしまった。
四つん這いの体勢でお尻を高く突き上げた私はシーツに顔を埋めていた。女王様は私の背後で手際良く浣腸の準備を進めている。不意に無機質な異物感を肛門に感じ取ると、浣腸器の先端がするりと潜り込んできた。生温かい液体が少しずつゆっくりと腸内に注ぎ込まれてくると、この異常な状況に興奮はみるみる深まり、股間ははち切れんばかりに膨張し先端から滴る液体がシーツを濡らしていた。小さく震える私の腕を掴み女王様はそっと窓際に私を引き連れた。窓を開け妖艶な笑みを浮かべながら私の耳元でそっと囁く。『我慢している顔をみんなに見てもらいなさい。』薄暗い部屋に急に差し込む陽の光に目が眩む。身悶えながら薄く目を開くと、道行く多くの人々がラブホテルの5階の窓からはっきりと見下ろせた。額に脂汗を滲ませ必死に便意と格闘しながら朦朧とした意識で眺める眼下には憧れの東京の街がどこまでも広がっていた。