文系男子は40歳を超えると鬱病になるらしい。なるほど、そう言われてみるとなんとも思い当たる節がいくつもある。40代に入り体力にもはっきりと陰りが見え始め、若者でも年寄りでもない微妙な立ち位置の自分がここ数年人生を迷走しているのは自覚していた。これからの人生の残り時間が大体計算できるこの歳になって妙な厭世観に囚われ音楽や映画、文学など何に触れても心踊ることがなくなっていた。またそれは風俗に於いても同様で、シティヘブンを眺めていても食指が動くことも無くそのままサイトを閉じてしまうこともままあった。このままではせっかくの休日もベッドの中で終えることになってしまう。そんな不安を振り払うように勢いをつけてベッドから飛び降りた私はすぐに身支度を整え始めた。この凝り固まった思考と身体をほぐしてもらうには性感エステの他はない。そう心に決めるとすぐさま予約を済ませ、馴染みのホテルへと車を走らせた。
やがてホテルの部屋にやってきたのは素人っぽさを存分に身に纏った二十代中盤の女性であった。淡紫のカットソーに白いタイトスカートがとてもよく似合う。程よい愛嬌をもった瞳と対比するようにやや大きめの口元が妙な色っぽさを演出している。その妖艶な口元から放たれる優しい語り口とのギャップにすっかり私は心を奪われていた。支払いをすませると彼女は静かに準備をしはじめた。流石この店のナンバーワンだけのことはある。動きに淀みが無くテキパキと準備を済ませ気付くと私の衣服も綺麗にはぎとられていた。期待と興奮ですでに硬直した私の股間を一瞥すると、小さく微笑みながら彼女はそっと脱衣場へ向かっていった。
水着姿に着替えた彼女に促され浴室に向かった。湯舟に肩まで浸かると不意に声が漏れ、少しずつ身も心もほぐれていくような気がした。洗い場で準備をする彼女のお尻を静かに眺める。小ぶりながらむっちりとした色気を持った臀部がゆらゆら揺れている。ゆっくりと浴槽を出ると彼女は私の背中にそっと手を触れた。彼女の両手が私の全身の穢れを少しづつ洗い流してゆく。私の敏感な場所に触れた際に時折漏れる呻き声を楽しむように彼女の両手の動きも少しづつ激しさを増してくる。私は常々風俗に於いて演技とまでは言わないが必要以上に反応を大きく見せるように心がけている。まるで無反応では女性もやりがいを感じることが出来ないであろう。コール&レスポンスを繰り返しながら演者とオーディエンスが一体となって作り上げる、それこそが風俗の醍醐味である。
浴室を後にすると、ベッドにうつ伏せに横たわり顔を枕に預けた。私の鼻腔をふんわりとローズの香りがくすぐる。『魂は細部に宿る』、彼女の小さな心遣いの一つ一つに、ますます期待は大きなものとなっていった。ゆっくりと開始された彼女のマッサージはシルクに包まれているかの如く適度な力加減で全身をほぐしてゆく。照度を落とした部屋に薄く流れているジャズが心地よい。私は身も心もすっかり彼女に預け、様々な体位で全身を弄ばれていた。仰向けになった私の右隣に横になった彼女の右手はじっくりと股間を刺激している。ゆっくりと、しかし的確に刺激している。口づけを交わせそうなほど近づいた彼女の口元からは息遣いがはっきりと聞き取れていた。私の漏らす吐息も徐々に大きくなってゆく。残されている時間はもう幾分もあるまい。私は吸い込まれそうな彼女の瞳を見つめながらゆっくりと果てた。そのまま握り続けている右手の温もりを感じながら私はいつまでも余韻から抜け出せずにいた。

