決して派手ではないが落ち着いた雰囲気でじっくりと責め立てる彼女のプレイは私の持つ被虐趣味にジグソーパズルの隣り合うピースのようにぴったり一致した。【福井・森田付近】

想い出の風俗

1963年に石川県加賀市に開業した日本初のモーテルと言われている「モテル北陸」。高度経済成長期と共に車社会が到来し幹線道路沿や高速道路のIC付近など至る所にモーテル、所謂ラブホテルが大量に建設されたようだ。フェニックス通りを福井市から北上すると森田中学校の付近に一軒の古びたラブホテルがあったのをご存じだろうか。おそらくラブホテル建築ラッシュの最中に建てられたであろうそのホテルは、かなりの年季を帯びており一見しただけでは営業しているのかさえ怪しいほどだった。薄汚れた外観でじっとりとすえた臭いが漂ってきそうなそのホテルに今から20年ほど昔、足繫く通っていた時期があった。そのホテルを出城にしているお気に入りのデリヘルがあったのだ。当時は今ほどインターネットも盛んではなくコンビニで購入したタウン誌に付属している冊子が手に入れることのできる風俗情報の全てだった。まだまだデリヘル黎明期である福井にひっそりとしかし確かに存在していたそのお店は当時の福井のデリヘルにしては珍しくしっかりとコンセプトを持っているM性感の店であった。そのころ既にM性をはっきりと自覚していた私は半信半疑ながらもそのお店に電話をかけた。そこで案内されたのが件のホテルだった。福井市内のホテルを指定しても大丈夫だったのではないかと思うが、そのホテルであれば交通費が不要だったように記憶している。私は指示された通りそのホテルまで車を走らせ恐る恐る建物の中へ入っていった。軋む階段をゆっくりと上っていくとうらぶれた部屋が現れ今までここを訪れた男女の情念・悲哀・諦念・安らぎ・倦怠など人間のあらゆる感情がまだうっすらと残っているようで少し薄気味が悪かった。もはや全くと言っていいほど期待を喪失していた私は一刻も早く事を済ませ、このホテルを後にしたかったが、程なくしてやってきた女性を一目見た時そんな負の感情は全て吹き飛んでしまっていた。「掃き溜めに鶴」という机上で学んだ諺を実地で体験した瞬間だった。年のころは30代前半ぐらいであろうか、大きく綺麗な瞳と美しい白い肌が記憶に残っている。決して派手ではないが落ち着いた雰囲気でじっくりと責め立てる彼女のプレイは私の持つ被虐趣味にジグソーパズルの隣り合うピースのようにぴったり一致した。不思議なものであれほど気味の悪かったホテルもさほど気にならずすっかり彼女の虜になった私はその日以来、週に1度ほどのペースでその店に通っていた。やがて気心もしれてくるとプレイ後には割と踏み込んだ内容の雑談もしていたような気もする。まだ若気も残っていた私は風俗嬢と客という関係性以上の感情を抱きつつあったのかも知れない。そんな逢瀬を繰り返していたがその時は突然やってきた。何度とその店に電話をかけたが繋がることはなく、やがて風俗情報誌の紙面からも姿を消していた。風俗という商売は水物、いずれこんな日が来る事は想像していたがひどく落胆した記憶が未だに残っている。やがてそのホテルの入口にはチェーンが張られ立ち入りが出来ないようになり、程なくして解体され更地になっていた。あの辺は北陸新幹線の整備区域でもあり、今となってははっきりとした場所も定かではない。彼女も今ごろは50歳前後になっているだろうか。どんな事情があって福井の片隅でひっそり働くことになったのかは知る由もないが、幸せに暮らしていることを切に願う。

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門戸 志郎

門戸 志郎

哀愁漂う風俗と酒場を求めて今宵も福井の街を彷徨う… 自らの20年以上に及ぶ風俗体験を徒然なるままに記した『福井風俗体験記』 是非一度ご覧になってください

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