1990年代に巻き起こった和製R&Bブーム。現在でも活躍中の数多くのアーティストがデビューし煌めく時代を鮮やかに彩っていた。そのなかでも白眉は彗星のごとく現れ、デビューアルバムが700万枚以上のセールスを記録した“宇多田ヒカル”であろう。当時お付き合いをしていた女性がファンだったこともあり車の中や彼女の自宅でよく一緒に聴いたものだ。おかげで今でもあの歌声を耳にすると当時の記憶と共に懐かしくも切ない気持ちがゆらゆらと沸き上がってくる。
その写真を見た時、私はハッと胸を掴まれる思いがした。日課であるサイトパトロールをしていると、ある女性の写真に目が止まった。綺麗に切り揃えられたショートボブ、意思の強そうな切れ長の瞳。顔の一部は隠されていたがその写真からはあの頃に交際していた女性の面影が見て取れたのだ。私は少しの動揺と興奮と共にスマートフォンを手に取り予約を済ませるとホテルに車を走らせた。いつもよりアクセルを踏む右足に力が入っていたような気がする。
震える手でドアを開けるとやってきたのは淡いベージュのコートに身を包んだ若い女性であった。薄いメイクの涼しげな目元が想い出の女性によく似ていた。静かにソファに腰掛けた彼女を正視することができず、ストッキングを穿いた足元を眺めながら私はタバコを燻らせていた。シャワーに誘われた私はそろりそろりと裸になり、彼女は躊躇いもなく一枚一枚衣服を脱いでいく。大き過ぎず適度に存在感のある胸に目を奪われた。若さ溢れる初々しい色味の突起が優美さを感じさせる。そして下半身は適度な肉感と程よくくびれたウエストの対比が美しく、得も言われぬ色気を醸し出している。私はシャワーを浴びている段階ですでに興奮を隠しきれぬほどいきり立っていた。
左利きだという彼女はベッドに横たわる私の左側にそっと滑り込んできた。唇と手が私の上半身を優しく弄ってくる。少しづつ大きくなりつつある快楽に身を捩りながら吐息を漏らすと、彼女と目が合いうっすらと微笑みかけてくるように見えた。彼女の愛撫が上半身から下半身に移っていくに連れ私の反応もより大きいものとなり漏れる吐息はいつしかはっきりと声に変わっていた。不意に交わしてくる口づけに興奮はより大きな波となり私を包み込む。快楽の渦に飲み込まれたまま口づけを交わし続け彼女の肩にしがみついた。最後の時がもうそこまで迫ってきているのを感じていた。彼女の左手が小刻みになり、より早まるとあっという間に私は果てた。享楽に浸り小さく震えながら私の手は彼女の肩にしがみ続けていた。余韻の泡がはじけ飛んでしまわぬよう私はじっと手を離さなかった。
シャワーを浴び服を着た彼女は微笑みながら私に近寄ってきた。小さくお礼を言い軽く口づけをするとまた優しく微笑んでくれた。最後のキスはイソジンのフレイバーがした。苦くて切ない香りだった。