しんしんと雪が降っている。こんな夜に一人でラブホテルにいると世界が止まっているかのように錯覚する。ゆったりと流れるスタンダードジャズが孤独な空間にほんのりと彩りを添えるような気がした。耳慣れたコード進行が心地よく自ずとリズムを刻んでしまう。久しぶりの紙煙草に火をつけ大きく吸い込むと少し噎せ返った。煙草を咥えながらソファに寝転ぶと私はゆっくりと目を閉じた。
「今日みたいな日は静かな女性がいいな」そう思い待ち人に期待を込めていると小さなノックの音が耳に響いた。ドアを開けると着古されたブラウンのコートにチェックのマフラーを身に着けた女性が自信なさそうに入ってきた。およそ風俗に似つかわしくない伏し目がちで地味な女性であった。しかし受付の電話を終えソファに座った彼女と向き合うと、くっきりとした眉と真っ直ぐな瞳が印象的で思いのほか美人であることに気が付いた。一言一言を確かめながら口にする控え目な彼女の話し方にも好感を覚え、私はいつも以上に饒舌に話し込んだ。数ヶ月前にこの仕事を始めたばかりの彼女はいささか応対に苦戦しているようだったが、会話が進むにつれ緊張も解けてきたのか時折笑顔もこぼれ始めていた。これはいわゆる“二軍の女”だ。学生時代には文化祭や体育祭などで先陣を切って活躍する一軍女子に目を奪われがちだが、二十代も半ばを過ぎた頃から二軍で目立たなかった女子達が大人の色気を手に入れ妖艶な女性に変わっていく。もしタイムマシーンが存在するのならば、学生時代の自分に二軍の女子を侮ることのないよう是非伝えたい。そんな馬鹿げたことを考えているとは露知らず、彼女はシャワーの支度をしゆっくりと服を脱ぎ始めた。
彼女の下着はおよそ色気というものを感じさせないものであったが、その素人然とした姿に私は興奮を隠せなかった。お尻の部分は薄く透け可愛らしい割れ目がのぞいている。静かにブラジャーを取ると適度な大きさの胸が現れた。バランスの取れた美しい形状のそれは絶妙の色合いの乳首を携えゆっくりと揺れていた。申し訳程度の薄い陰毛も彼女の白い躰のアクセントとなり、得も言われぬ色気を醸し出していた。たどたどしい手つきの彼女とのシャワータイムを終えると私はベッドに横たわった。様子を伺いながらおずおずと近づいてくる彼女が愛おしい。まるで付き合ったばかりの恋人と初めての夜を共にするようだ。
プレイの方は言わずもがな数か月のキャリアの彼女に多くを求める方が間違っている。時間ぎりぎりになんとか果てることができた私はほっとしたが、それ以上に彼女は安堵の表情を浮かべていた。いそいそと身支度を整え一緒にホテルを出るとうっすらと雪が積もっていた。小声でお礼を述べ小さく手を振る彼女を見たとき、「また来月も呼ぼう」そう心に誓った。