すっかり色づいた公園の木々をビジネスホテルの最上階から眺める平日の午後。数日ぶりの青空もあと2時間もすればこの木々の色と同化し、やがて夜の闇に包まれてしまうだろう。30分以上左手に握られたスマートフォンは同じサイトのページを何度もループしている。充電も残り少なくなり時間が無い、わかってはいるのに決断を先延ばしにしてしまうのはいつもの癖だ。「充電器、借りてくれば良かったな…」誰に言うでもなくひとり呟き電子タバコを咥えた。最後の煙をめんどくさそうに吐きながら意を決して発信ボタンをタップすると鼓動が少し早くなった様な気がした。数回のコール音の後、妙に甲高い声のいつもの男が受話器をとる。手短に用件を伝え電話を切ると私は小さく息を吐いた。
あと15分ぐらいだろうか、女性の到着を待つこの時間がもっとも心躍る時間である事は今までの経験則でわかっている。きっとドアを開けた時には大なり小なり落胆と共に部屋に迎え入れる事になる筈だ。それを何度も繰り返しているが、「今回こそは…」と捨て切れない期待と不安のループにも飽き始めた時、小さなノック音が部屋に響いた。音のする方へ目を向け足早に近づいたが焦りと期待を悟られぬ様、呼吸を整えてからゆっくりとノブを回す。
そこに立っていた女性は至って平凡だった。小さな声で挨拶をしてそそくさと部屋に入る後ろ姿も至って平凡。振り返った顔を再び眺めてみたがやはり平凡。まるで久しぶりに会う同級生の嫁の様な可もなく不可もない容姿だった。「これは期待できるぞ」そう小さく呟いた。私は常々風俗嬢に於いては容姿が60~70点ぐらいが至高だと思っている。容姿が素晴らしい90~100点の女性は、サービスやテクニックに対しての努力を怠り所謂サービス地雷が多い。流石に40点の容姿は勘弁だがこれぐらいが丁度いい塩梅だ。
料金を支払いお店に電話をかけ終わった彼女と改めて向き合い自己紹介をした。関西から月に一度、福井に出稼ぎに来てるという彼女は不敵な笑みを浮かべながらベッドに座る私の隣にゆっくりと近づいてきた。他愛もない雑談をしながら、少しずつ私の服を脱がされていく。トークの内容もテンポも心地良く、期待値はどんどん高まっていった。私の服を全て脱がし終えると、彼女は静かに立ち上がりスカートとセーターを脱いで小さく畳んだ。下着を外しシャワーへと誘う彼女の裸は、窓から差し込む夕暮れの日差しのせいか、陰影がくっきりととても卑猥なものに見えた。
片手に充分おさまる控えめな胸、年相応に弛んだ腹部、程よい肉付きの尻。若い女性には醸し出すことのできない柔らかな色気を身にまとったその身体は全てが理想的だった。触れた瞬間に肌の相性が間違いなく良いだろうという期待はすぐに確信に変わった。彼女の愛撫はまるで秋風に揺蕩うボサノバの様に心地よいリズムで私の身体を爪弾き快楽の音色を奏でるのだった。
私の手が彼女の秘部に触れた時の反応はやや仰々しいものではあったが、それを演技だと言う程、私は野暮ではない。舞台上を指差しこれは作り物だと叫ぶ人などどこにいようか。ヒロインの迫真の演技に呼応するように私も精一杯主役を演じる。二人の掛け合いも共演が初めてではないような息の合ったものだった。やがて物語はクライマックスを迎え私は彼女の手を強く握りながら大きく果てた。
道ゆく車のヘッドライトを眺めながら電子タバコをくゆらせていると、準備を整えた彼女が鞄を持ち立ち上がった。舞台を降りた彼女はまたどこにでもいそうな女性に戻り手短にお礼を述べた。「また会いたいな。」久しぶりにそう思える女性だった。鞄を担ぎ小さく会釈をすると、彼女はまた次の舞台へと向かって行った。